日本のスキーショップに足を運ぶと、Salomon(サロモン)、Atomic(アトミック)、Rossignol(ロシニョール)といった海外のビッグブランドが所狭しと並んでいます。世界的なシェアやワールドカップでの実績を見れば、これらのブランドが主流であることは間違いありません。
しかし、そんな中でも確固たる地位を築き、多くの日本のスキーヤーから熱狂的とも言える支持を集めているのが「国産ブランド」です。
なぜ彼らは、あえて国産ブランドを選ぶのでしょうか?
この記事では、日本のスキーヤーが国産ブランドに寄せる信頼の理由と、その代表格である「OGASAKA(オガサカ)」、そしてモーグル界で圧倒的な存在感を放つ「ID one(アイディーワン)」の魅力について徹底的に解説します。
まずはじめに。国産ブランドが選ばれる「3つの理由」
海外ブランドにはない、国産ブランドならではのアドバンテージとは何でしょうか。多くのスキーヤーが口を揃える、主な理由は以下の3つです。
① 日本の「雪質」への最適化
一口に「雪」と言っても、その質は様々です。北海道で降る超軽量の「Japow(ジャパウ)」、本州のスキー場に多い適度に湿気を含んだ圧雪バーン、そして春先の重く湿った「ザラメ雪」。
日本のスキー場は、世界的に見ても非常に多様で、時に難しいコンディションに直面します。国産ブランドは、この「日本の多様な雪」でいかに快適に滑れるかを第一に開発されています。どんな雪質でも板が暴れにくく、安定した操作ができる安心感は、国産ブランドならではの大きな魅力です。
② 日本人の「体格・脚力」へのフィット
多くの海外ブランド(特にヨーロッパのブランド)は、アルプスの広大な斜面をハイスピードで滑り降りる欧米人の体格やパワーを基準に設計されています。そのため、板のフレックス(硬さ)やトーション(ねじれ)が強く、小柄な日本人や脚力に自信のないスキーヤーでは、板の性能(特に「たわみ」による反発)を十分に引き出せないことがあります。
対して国産ブランドは、平均的な日本人の体格や脚力でも扱いやすいよう、絶妙なバランスで設計されています。無理な力を入れなくても板がスムーズにたわみ、ターンをアシストしてくれる。「スキーが上達させてくれる」と評される理由はここにあります。
③ 圧倒的な品質と信頼性(Made in Japanクオリティ)
スキーは、ウッドコア(芯材)、グラスファイバー、メタルシート、滑走面素材など、多くの異なる素材を精密に重ね合わせ、高熱・高圧でプレスして作られる非常にデリケートな製品です。
国産ブランド、特にOGASAKAは、長野県の自社工場での一貫生産にこだわり続けています。使用する素材の厳選、ウッドコアの丁寧な加工・熟成、そしてミリ単位のズレも許さない組み立て精度。この**「丁寧なモノづくり」**が生み出す仕上げの美しさ、滑走性能の高さ、そして長く使える耐久性が、日本のスキーヤーからの絶対的な信頼につながっています。
伝統と革新の「技術のデパート」:OGASAKA (オガサカ)
国産ブランドと聞いて、まず「OGASAKA」を思い浮かべる人は少なくないでしょう。1912年(明治45年)創業という、日本のスキー史そのものとも言える老舗ブランドです。
OGASAKAの魅力とは?
① 乗り手のレベルを問わない「素直さ」 OGASAKAのスキーを一言で表すなら「素直」です。乗り手が「こう動きたい」と思った操作に対し、板が忠実に、そしてスムーズに反応してくれます。
変なクセがないため、スキーヤーは自分の滑りに集中でき、自然と正しいポジションや操作が身につきます。全日本スキー技術選手権大会(技術選)でトップ選手たちがこぞってOGASAKAを使用するのは、自分の技術を100%表現できる「信頼できる相棒」だからにほかなりません。
② 滑走性能の核。「ウッドコア」への異常なこだわり スキーの乗り味(しなやかさ、粘り、反発力)を決定づけるのは、中心部にある「ウッドコア(芯材)」です。OGASAKAは、このウッドコアの素材となる木材の厳選、乾燥、加工に膨大な時間とコストをかけています。
自社工場で丁寧に熟成させた高品質なウッドコアが、あの独特の「粘りのあるフレックス」と「振動吸収性」を生み出します。ハイスピードで荒れた斜面を滑っても板がバタつかず、足元に吸い付くような安定感は、まさにOGASAKAの真骨頂です。
③ 目的別に最適化された多彩なラインナップ 「技術のデパート」と呼ばれるほど、OGASAKAのラインナップは多彩です。
- 「KEO’S (ケオッズ)」: 技術選やプライズテストを目指す上級者向け。高い操作性とキレを両立したフラッグシップモデル。
- 「UNITY (ユニティ)」: スキーの楽しさを再発見したい中級者~シニアスキーヤー向け。どんな斜面でも扱いやすく、楽にターンができるロングセラーモデル。
- 「TRIUN (トライアン)」: レーサー向けの競技用モデル。
初心者から上級者まで、自分のレベルや目的に合わせて「最適な一台」を選べるのも、長年培われた技術の蓄積があるOGASAKAだからこそです。
モーグル界のレジェンドが愛する板:ID one (アイディーワン)
次に紹介するのは、フリースタイルスキー、特にモーグルの世界でその名を轟かせる「ID one」です。
ID oneの魅力とは?
① オリンピックでの圧倒的な実績
ID oneの名を一躍有名にしたのは、長野五輪の里谷多英選手、そして5大会連続入賞の上村愛子選手といった日本のトップモーグラーたちの活躍です。
さらに近年では、絶対王者ミカエル・キングスベリー(カナダ)をはじめ、多くの海外トップ選手がID oneを使用し、オリンピックやワールドカップの表彰台を席巻しています。「世界一コブを速く、美しく滑るためのスキー」として、競技シーンで不動の地位を築いています。
② モーグルで培われた究極の操作性と衝撃吸収性
モーグルのコブ斜面では、硬く深いコブの衝撃を吸収しながら、瞬時に板を切り返し、エッジをズラすといったシビアな操作が要求されます。
ID oneは、こうした極限状況下で最大のパフォーマンスを発揮できるよう設計されています。トップとテールが柔らかく、センター(足元)はしっかりとしたフレックスバランスにより、コブの凹凸にスキーが張り付くように対応し、ライダーの意図通りに板をコントロールできます。この高い操作性と走破性は、一般のスキーヤーがコブ斜面を攻略する上でも強力な武器となります。
③ ゲレンデを遊びつくすフリーライドモデル
ID oneはモーグル専用ブランドではありません。「MOGUL RIDE」シリーズのほか、ゲレンデ全体を自由に楽しむための「FREE RIDE」シリーズも展開しています。モーグルで培われた技術をベースに、圧雪バーンでのカービング性能や、不整地での走破性を高めたモデルは、コブだけでなくゲレンデのすべてを遊びつくしたいスキーヤーに人気です。
(ちなみに、ID oneはオガサカスキー製作所で開発・製造されており、その品質はOGASAKAのお墨付きでもあります)
よくある質問 (Q&A)
Q. 国産ブランドは高いイメージがあるけど…?
A. 確かに、OGASAKAやID oneのハイエンドモデルは海外ブランドのトップモデルと同様に高価です。しかし、これは最高の素材と手間をかけて作られている証でもあります。また、国産ブランドは耐久性が非常に高いことでも知られており、良い状態を長く維持できるため、結果的にコストパフォーマンスは高いと言えます。
Q. 初心者でも国産ブランドに乗っていいの?
A. もちろんです。むしろ初心者~中級者にこそ乗ってほしいモデルがあります。特にOGASAKAの「UNITY」シリーズなどは、「どうすれば楽にターンができるか」「どうすればスキーが上達するか」を徹底的に考えて作られています。変なクセがなく、上達を早めてくれる最高の教科書となるでしょう。
Q. デザインが少し地味な気がします…
A. 以前は「質実剛健」でシンプルなデザインが多かったのは事実です。しかし、近年はデザインも非常に洗練されています。ID oneのシンプルでソリッドなデザインは「機能美」として多くのファンがいますし、OGASAKAもモデルごとに個性的で美しいグラフィックを採用しています。
まとめ
多くの日本のスキーヤーが「国産ブランド」を選ぶのには、明確な理由があります。それは、「日本の雪」と「日本人の体格」を知り尽くした「Made in Japan」ならではの圧倒的な信頼性と、滑る喜びを増幅させてくれる高い性能があるからです。
- スキーがうまくなりたい、技術を追求したいなら、OGASAKAの「素直さ」と「懐の深さ」。
- コブを克服したい、ゲレンデを自由に滑り降りたいなら、ID oneの「操作性」と「走破性」。
海外ブランドの華やかさも魅力的ですが、次の板選びの際には、ぜひ日本の職人魂が込められた「国産ブランド」を試してみてはいかがでしょうか。きっと、あなたのスキーライフをより豊かにしてくれるはずです。

