なぜ平野歩夢の2本目は低評価だったのか?世界が激怒したジャッジの裏側と2026年への課題
2022年2月、北京オリンピックのスノーボード男子ハーフパイプ決勝。 あの瞬間、テレビの前で言葉を失い、そして怒りに震えたスノーボードファンは私だけではないはずです。
平野歩夢選手が見せた、人類史上初となる超大技「トリプルコーク1440」を含む完璧なルーティン。しかし、2本目の滑走後に表示されたスコアは、会場の熱狂を冷水を浴びせるような「91.75点」でした。
結果として、平野選手は3本目で自身の力だけでその判定を覆し、金メダルを勝ち取りました。しかし、あの「不可解なジャッジ」を「終わりよければ全てよし」で済ませてはいけません。
ミラノ・コルチナ2026でも話題に出てきたトッド・リチャーズ氏
2026年ミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックが開幕し、早速スノーボード日本代表がビックエアで表彰台の金、銀を獲得し、勢いに乗りたいTEAM JAPAN。
そのビックエアの競技中、NBCの解説トッド・リチャーズ氏がマイクを切り忘れて「退屈だった」などメダリストに対する敬意のかけらもない発言が出ました。しかし、彼は前回大会の北京オリンピック2022で平野歩夢に対するジャッジの低さに怒りを露わにした人でもあります(以下に動画あり)。
世界が激怒した「2本目」の不可解なスコア
まずは事実を振り返りましょう。決勝の2本目、平野歩夢選手は以下の構成を完璧にメイクしました。
- フロントサイド・トリプルコーク1440(五輪史上初成功)
- キャブ・ダブルコーク1440
- フロントサイド・ダブルコーク1260
- バックサイド・ダブルコーク1260
- フロントサイド・ダブルコーク1440
高さ(アンプリチュード)、難易度、着地の完成度。どれをとっても「異次元」の滑りでした。しかし、ジャッジが出した点数は91.75点。 当時1位につけていたスコッティ・ジェームス(オーストラリア)の92.50点に届かず、2位という評価でした。
米国解説者も生放送で「ありえない!」と絶叫
この判定に対し、各国のメディアや解説者も即座に反応しました。特に話題となったのが、アメリカNBCの解説を務めた元プロスノーボーダー、トッド・リチャーズ氏の発言です。今回のミラノ・コルティナの男子ビックエアの解説も行っていて、切り忘れたマイクの前でお騒がせ発言をした張本人です。
「ジャッジへの信用は木っ端みじんに吹き飛んだよ!この滑りのどこに減点要素があるんだ!?本当に信じられない!こんなことが起こるなんて、、、なんという茶番劇なんだよ!(It’s a travesty)!」
これは単なる日本人の贔屓目ではなく、スノーボードを知り尽くした世界中の専門家が「おかしい」と感じた判定だったのです。実際の実況の様子が以下の動画です。
トッド・リチャーズ氏は、今回のミラノ・コルティナでの発言は選手に対するものではなかったと釈明に追われましたが、前回の発言からすると、それも本音であると言え、スノーボードを心から愛しているという事は伝わってきます。
なぜミスジャッジは起きたのか? 3つの分析
なぜ、あのような低い点数がついたのでしょうか? 感情論を抜きに、スノーボード競技特有の「採点の難しさ」と「構造的な問題」から分析します。
1. 進化のスピードに人間の目が追いついていない
スノーボード、特にハーフパイプの進化は凄まじいスピードで進んでいます。「ダブルコーク」が標準になり、ついには「トリプルコーク」へ。 回転数が増え、軸が複雑になるほど、ジャッジが瞬時に「グラブの長さ」や「着地の完璧さ」を目視で判断するのは困難になります。
当時、一部のジャッジからは「トリプルコークの後の着地がわずかに詰まった(流れが止まった)ように見えた」という指摘もありました。しかし、映像を見返してもそれは減点対象になるようなミスではありませんでした。
2. 「全体の印象(Overall Impression)」という曖昧さ
フィギュアスケートのように技ごとに基礎点が細かく決まっている競技とは異なり、スノーボード(特にFIS主催の五輪)は「全体の印象」を重視する傾向があります。 スコッティ・ジェームスの滑りは非常にスタイリッシュで完成されていましたが、難易度では平野選手が圧倒していました。「難易度」と「完成度/スタイル」のどちらを重んじるか、その基準がジャッジ個人の主観に委ねられすぎている点が問題視されました。
3. 「トリプルコーク」への評価基準が未確立だった
前人未踏の技であるがゆえに、ジャッジ自身も「この技をどう評価し、他の技とのバランスをどう取るか」の基準を持てていなかった可能性があります。「すごい技だが、他のルーティンとの調和はどうか?」と迷いが生じた結果、保守的な点数に落ち着いてしまったという見方です。
しかしこの見方には疑問も沢山残ります。だとしたら、平野歩夢選手の3本目にも同様のジャッジをしなければならなかったはずです。アメリカのジャッジは89点というそれこそありえない得点を付けているところを見ると、オリンピック憲章に反したジャッジが行われていたことに疑いの余地はありません。
伝説の3本目:実力で審査員を黙らせた「怒りの一撃」
あの2本目の後、平野歩夢選手は明らかに不満げな表情を浮かべていました。しかし、彼はそこで腐りませんでした。
「判定がおかしいなら、文句のつけようがない滑りをもう一度やるだけだ」
そう言わんばかりに、3本目。彼はあえて2本目と全く同じルーティンを選択しました。構成を変えず、ただ一つ、「完成度」を極限まで高めて。
結果、さらに高さを増したトリプルコーク1440を決め、着地も完璧に修正。 これにはジャッジも96.00点を出さざるを得ませんでした。
まさに、己の実力だけで理不尽な判定をねじ伏せ、ジャッジを「黙らせた」瞬間でした。これはオリンピック史に残る、最も痛快で、かつ最も危うい勝利だったと言えます。
ミラノ・コルティナ2026への提言と警告
平野選手の精神力によって、北京五輪は「感動」で終わりました。しかし、もし彼が3本目で転倒していたら? 史上最悪の後味の悪い大会として記憶されていたでしょう。そして、ジャッジへの非難は高まり、ジャッジの資質やルール改正、AIの導入などへと発展していったでしょう。
そうみると、平野歩夢選手は、自分の実力を証明しただけでく、その後のジャッジへの非難をも沈めたという見えない功績も残したと言えます。
来る2026年ミラノ・コルティナ五輪では、このような事態は許されません。
今後のスノーボード界に必要なこと
- 政治的思想の排除 オリンピズムの根本原則には、スポーツを通じて平和で人間の尊厳が保たれる社会の確立や、いかなる差別も受けることなくスポーツを行う事が挙げられています。また政治的・宗教的・人種的な中立性も求められています。2022年にはここに上げた中立性が欠けていたとも言えます。
- 審査基準の透明化とリアルタイム開示 「なぜその点数なのか」の内訳(セクションごとのスコアなど)を、観客と選手に即座に開示するシステムの構築が急務です。ブラックボックス化した採点は、競技の信頼性を損ないます。
- ジャッジの教育とアップデート 選手の技術進化に合わせ、ジャッジもトレーニングが必要です。超高難度トリックを正確に見極められる動体視力と知識を持った人材の育成が不可欠です。
私たちも厳しくジャッジ
北京での平野歩夢選手の金メダルは、スノーボード競技の可能性を広げると同時に、採点システムの限界を露呈させました。
- 2本目の91.75点は、専門家が見ても明らかな過小評価だった。
- 平野歩夢は、3本目でさらに完成度を高め、自らの力で正義を証明した。
- 2026年ミラノ五輪では、進化する技に対応できる公正なジャッジシステムが不可欠。
オリンピックでは、スポーツの楽しさを伝えると同時に、競技が公平に行われなければなりません。次のオリンピックで、選手たちが流す涙が「悔しさ」や「怒り」ではなく、「歓喜」のものであることを願って、わたしたちも何が起こっているのか厳しくジャッジをしていきましょう。

