ミラノ・コルティナオリンピック2026 アイスホッケー完全ガイド

Ice Hockey Milano Cortina 2026 Olympic Snowsearch スノーサーチ
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氷上の格闘技、その新時代への転換点

2026年2月6日から22日にかけてイタリアで開催される第25回オリンピック冬季競技大会(ミラノ・コルティナダンペッツォオリンピック)におけるアイスホッケー競技は、スポーツ史における重要な転換点となることが確実視されている。男子競技においては、世界最高峰のプロリーグであるNHL(ナショナルホッケーリーグ)の選手たちが、2014年ソチ大会以来12年ぶりにオリンピックの舞台へ帰還することが決定しており、真の「世界一決定戦」が復活する。一方、女子競技においては、北米でのPWHL(プロフェッショナル女子ホッケーリーグ)の発足や欧州リーグのプロ化に伴い、競技レベルが飛躍的に向上している中で迎える大会となる。   

本レポートでは、日本国内のファンおよび関係者に向けて、女子日本代表「スマイルジャパン」の全貌、男子競技におけるNHLスーパースターたちの競演、そして大会を左右する会場・ルール規定の変更点に至るまで、利用可能な膨大なデータに基づき徹底的に解説する。特に、悲願のメダル獲得を目指すスマイルジャパンについては、全登録選手の詳細なプロフィールと戦術的役割を網羅し、観戦の質を劇的に高めるための包括的なガイドを提供するものである。

大会の地理的・構造的特徴

本大会は「ミラノ・コルティナ」の名の通り、イタリア北部の広範囲に会場が分散する史上最も広域な冬季五輪となるが、アイスホッケー競技に関してはミラノ市内に集約されている点は特筆に値する。アルペン競技などがドロミテ山塊のコルティナ・ダンペッツォで行われるのに対し、アイスホッケーは都市部で開催されるため、多くの観客動員と熱狂的な雰囲気が予想される。   

競技会場の全貌

アイスホッケー競技は、以下の2つの主要アリーナで開催される。

会場名役割・特徴収容能力・備考
パラ・イタリア(ミラノ・サンタジュリア・アイスホッケーアリーナ)メイン会場。男子の主要試合、準決勝、決勝、および女子のメダル決定戦が行われる新設アリーナ。約15,000人収容予定。NHLスターを迎えるための最新鋭設備を備えるが、工期の遅れが懸念されていた
ミラノ・ロー・アイスホッケーアリーナ(フィエラ・ミラノ)サブ会場。女子の予選リーグ(グループB含む)や男子の一部の試合が行われる。見本市会場(フィエラ)内に設営される仮設リンクを含む施設。スマイルジャパンの予選全試合はここで行われる

競技環境の変革:リンクサイズと安全規定

本大会における最大の技術的トピックは、リンクの規格変更である。これは単なる寸法の違いに留まらず、各国の戦術や勝敗の行方を左右する極めて重要な要素となる。

「NHLサイズ」の採用とその影響

長年、オリンピックや世界選手権などの国際大会では、横幅の広い「インターナショナルサイズ」(60m × 30m)が使用されてきた。幅広のリンクはスケーティング技術やパス回しを重視する欧州や日本のスタイルに有利とされてきた。しかし、ミラノ・コルティナ大会では、国際アイスホッケー連盟(IIHF)とNHLの合意に基づき、北米規格に近い「60m × 26m」のリンクが採用されることが確定している。   

この「幅4メートル」の縮小がもたらす影響は甚大である。

  • 物理的接触の増加: プレーエリアが狭くなることで、選手同士の距離が縮まり、ボディコンタクトの頻度が劇的に増加する。これはフィジカルに勝る北米勢(カナダ、アメリカ)に有利に働くと分析されている。   
  • 意思決定の高速化: パスや判断に使える時間と空間(Time and Space)が削られるため、瞬時の判断力が求められる。
  • スマイルジャパンへの影響: 伝統的に豊富な運動量と俊敏性を武器としてきた日本女子代表にとって、狭いリンクは諸刃の剣となる。相手のプレッシャーを回避するスペースが減る一方で、日本の強みであるトランジション(攻守の切り替え)の速さを活かし、ゴールへの最短距離を突くカウンター攻撃が有効になる可能性もある。飯塚祐司監督およびコーチ陣は、この狭いリンクに対応するための「北米仕様」のホッケーへの適応を進めてきた。   

2.2 安全対策の強化:ネックガードの義務化

2023年に英国リーグで発生したアダム・ジョンソン選手の死亡事故(スケートの刃が首に接触)を受け、IIHFは全公式戦におけるネックラセレーションプロテクター(耐切創ネックガード)の着用を義務付けた。NHLでは2026-27シーズン以降の新入団選手から義務化される予定であるが、オリンピックはIIHF管轄であるため、コナー・マクデイビッドやオーストン・マシューズといったNHLの超スーパースターであっても、本大会ではネックガードの着用が強制される。これは安全面における画期的な進歩であり、世界中のジュニア選手への模範となるだろう。   

女子日本代表「スマイルジャパン」徹底分析

1998年長野大会での開催国枠出場から始まり、ソチ、平昌、北京と着実にステップアップを遂げてきた女子日本代表(愛称:スマイルジャパン)。5大会連続の出場となる今大会では、史上初のメダル獲得という野心的な目標を掲げている。

チームの現在地と予選プロセス

日本は現在、世界ランキングにおいてトップグループ(グループA)への定着を狙う位置にいるが、本大会のフォーマットではグループBからのスタートとなる。これは、2024年および2025年の世界選手権の結果に基づくランキングによるものである。   

  • グループ分け:
    • グループA (世界ランク1-5位): カナダ、アメリカ、フィンランド、チェコ、スイス
      • ※5チーム全員が準々決勝へ進出。順位決定戦の意味合いが強い。
    • グループB (世界ランク6位以下+開催国):日本、スウェーデン、ドイツ、フランス、イタリア
      • 上位3チームのみが準々決勝へ進出できる「サバイバル」グループである。   

この構造上、日本にとっての予選リーグは、実質的な「決勝トーナメント」と同等の重みを持つ。特にグループBの首位通過を果たせば、準々決勝でグループAの3位(スイスやチェコと予想される)と対戦することになり、カナダ・アメリカという2強との対戦を準決勝まで回避できる可能性が高まるため、「グループB 1位通過」が至上命題となる。   

登録選手(ロースター)完全プロフィール

2025年12月に発表された代表メンバー23名(FW 12名、DF 8名、GK 3名)は、長年チームを支えてきたベテランと、新興勢力の若手が融合した構成となっている。特筆すべきは、スウェーデン女子プロリーグ(SDHL)で主力として活躍する選手たちの存在である。   

以下に、各選手の詳細なプロフィールとプレースタイル、今大会での期待される役割を詳述する。

【ゴールキーパー (GK)】 – 最後の砦

日本の守備的なホッケーを支える最も重要なポジション。北京大会で神がかり的なセーブを見せた藤本那菜が引退した後、熾烈な正GK争いが繰り広げられた。

1. 増原 海夕 (Miyuu Masuhara)

  • 所属: 道路建設ペリグリン(日本)
  • 役割: 正GK候補筆頭
  • 分析: 2025年世界選手権で正GKを務め、安定したセービングを見せた現在の日本の守護神。小柄ながらポジショニングの正確さとリバウンドコントロールに優れ、乱戦になりやすい狭いリンクでの対応力が光る。   

2. ハロラン 麗 (Rei Halloran)

  • 所属: Järnbrotts HK (スウェーデン/NDHL)
  • 経歴: ウェズリアン大学(NCAA D3)出身   
  • 分析: スウェーデンの下部リーグ(NDHL)で経験を積み、欧州の大型選手のシュートに対する免疫を持つ。北米の大学ホッケーを経ており、英語でのコミュニケーション能力も含め、チームに国際的な視点をもたらす異色の存在。サイズとリーチを活かしたプレースタイルが特徴。   

3. 川口 莉子 (Riko Kawaguchi)

  • 所属: Daishin IHC(日本)
  • 役割: 第3GK / 次世代枠
  • 分析: 国内リーグでの好成績が評価され選出。バックアップとしてチームを支えつつ、緊急時の登板に備える。   

【ディフェンダー (DF)】 – 攻守の要

平均身長で海外勢に劣る日本DF陣にとって、26mリンクでのフィジカルバトルは最大の課題となる。しかし、スケーティングの技術と連携の良さでそれを補う。

4. 小池 詩織 (Shiori Koike) – キャプテン

  • 所属: 道路建設ペリグリン(日本)
  • 生年月日: 1993年3月21日(大会時32歳)
  • 代表キャップ: 129試合以上   
  • 分析: チームの精神的支柱であり、不動のキャプテン。長年の経験に裏打ちされた読みの鋭さと、小柄ながら当たり負けしない体幹の強さを持つ。パワープレーの起点としても機能し、リンク内外でチームを統率する。後述する「ゴールソング」の選定者でもある。   

5. 人里 亜耶可 (Ayaka Hitosato)

  • 所属: Linköping HC (スウェーデン/SDHL)
  • 役割: 攻撃的DF / 第1セット
  • 分析: 欧州最高峰のSDHLでレギュラーとして活躍する数少ない日本人DF。海外の大型FWとの1対1に慣れており、守備だけでなく攻撃参加のタイミングも絶妙。彼女の経験は、グループB最大のライバルであるスウェーデン戦で鍵となるだろう。   

6. 志賀 葵 (Aoi Shiga)

  • 所属: MoDo Hockey (スウェーデン/SDHL)
  • 役割: ハイブリッドDF
  • 分析: 姉の志賀紅音と共にスウェーデンでプレー。本来はDFだが、状況に応じてFWもこなせるユーティリティ性を持つ。強烈なスラップショットを持っており、ポイントゲッターとしても期待される。フィジカルコンタクトを恐れないプレーは、狭いリンクでさらに輝くはずだ。   

7. 細山田 茜 (Akane Hosoyamada)

  • 所属: 道路建設ペリグリン(日本)
  • 経歴: シラキュース大学(NCAA D1)出身
  • 分析: 北米NCAAディビジョン1でのプレー経験を持つベテラン。英語が堪能で審判とのコミュニケーションも円滑に行える。冷静沈着なプレーで守備陣を落ち着かせる「クオーターバック」的な存在。   

8. 山下 栞 (Shiori Yamashita)

  • 所属: SEIBUプリンセスラビッツ(日本)
  • 分析: 国内屈指の強豪SEIBUの主力。堅実な守備と正確なパス出しが持ち味で、ミスの少ない安定したプレーが評価されている。   

9. 関 夏菜美 (Kanami Seki)

  • 所属: SEIBUプリンセスラビッツ(日本)
  • 分析: 豊富な運動量を活かした粘り強い守備が特徴。ペナルティキリング(数的不利)のスペシャリストとして、相手の決定機を摘み取る。   

10. 佐藤 虹羽 (Kohane Sato)

  • 所属: Daishin IHC(日本)
  • 分析: 若手成長株のDF。パックハンドリング技術が高く、攻撃の組み立てに参加できる。   

11. 秋本 なな (Nana Akimoto)

  • 所属: 道路建設ペリグリン(日本)
  • 生年月日: 2009年4月8日(大会時16歳)   
  • 分析: チーム最年少の16歳。類まれなホッケーセンスを持つ「天才少女」として抜擢された。体格的にはまだ成長途上だが、物怖じしないプレーと順応性の高さで、世界への驚きを提供するジョーカー的存在。   

【フォワード (FW)】 – 得点力不足からの脱却

過去の大会で課題とされてきた「決定力不足」を解消するため、個の突破力を持つ選手と組織的なハードワーカーがバランスよく配置されている。

12. 志賀 紅音 (Akane Shiga) – エースストライカー

  • 所属: Luleå HF (スウェーデン/SDHL)
  • 経歴: PWHLオタワ(2023-24)
  • 分析: 現在の日本女子ホッケー界における唯一無二の「ワールドクラス」プレイヤー。世界最高峰リーグPWHL(北米)でプレーした初の日本人選手であり、現在はスウェーデンの強豪Luleåでポイントを量産している。圧倒的なスピード、ハンドリング、そして強烈なシュート力を兼ね備え、どんな体勢からでもゴールを狙える。彼女の得点力が日本の命運を握っていると言っても過言ではない。   

13. 床 秦留可 (Haruka Toko)

  • 所属: Linköping HC (スウェーデン/SDHL)
  • 役割: プレーメーカー
  • 分析: 姉の床亜矢可(今回はメンバー外の可能性あり、資料に記載なし)と共に長年代表を牽引。卓越したパックキープ力と視野の広さを持ち、志賀紅音へのラストパスを供給する役割を担う。スウェーデンでのプレー経験により、屈強な相手に対するパックプロテクション技術が向上した。   

14. 浮田 留衣 (Rui Ukita)

  • 所属: Daishin IHC(日本)
  • 分析: パワーとテクニックを兼ね備えたベテランFW。ゴール前での泥臭いプレーを厭わず、リバウンドを押し込む強さがある。フィジカル勝負になる対ドイツ戦などで真価を発揮するタイプ。   

15. 三浦 芽依 (Mei Miura)

  • 所属: TOYOTAシグナス(日本)
  • 分析: 2025年世界選手権でチーム最多得点を記録したスコアラー。シャープな動き出しで相手DFの裏を取り、ワンチャンスをモノにする決定力がある。   

16. 輪島 夢叶 (Yumeka Wajima)

  • 所属: 道路建設ペリグリン(日本)
  • 分析: 五輪最終予選でチームを救う得点を連発し、一躍ブレイクした23歳。北京大会落選の悔しさをバネに成長し、今や欠かせない得点源となった。スピードに乗ったドリブル突破が魅力。   

17. 伊藤 麻琴 (Makoto Ito)

  • 所属: TOYOTAシグナス(日本)
  • 分析: 攻守のバランスが良い万能型FW。フォアチェックの意識が高く、相手DFにプレッシャーをかけ続ける。   

18. 野呂 里桜 (Rio Noro) & 野呂 莉里 (Riri Noro)

  • 所属: Daishin IHC(日本)
  • 分析: 姉妹での選出。互いの動きを熟知した「あうんの呼吸」での連携プレーは、相手守備陣を混乱させる。共にアグレッシブなスケーティングが持ち味。   

19. 小山 玲弥 (Remi Koyama)

  • 所属: SEIBUプリンセスラビッツ(日本)
  • 分析: スピードスター。ペナルティキリング時のカウンターアタックで脅威となる。   

20. 前田 鈴風 (Suzuka Maeda)

  • 所属: 道路建設ペリグリン(日本)
  • 分析: 小柄だが重心が低く、コーナーでのパックバトルに強い。   

21. 多田 藍 (Ai Tada)

  • 所属: Daishin IHC(日本)
  • 分析: 献身的な守備的FW。第4セットでのエネルギッシュなプレーがチームにリズムをもたらす。   

22. 小平 梅花 (Umeka Odaira)

  • 所属: Daishin IHC(日本)
  • 分析: 若手のホープ。思い切りの良いシュートで局面を打開する。   

チーム戦術とカルチャー

飯塚祐司監督の戦術哲学: 飯塚監督(元日本代表DF)は、日本の伝統的な武器である「運動量」と「組織力」をベースにしつつ、近年は「個での打開」も許容する柔軟なスタイルを取り入れている。特に、狭い26mリンク対策として、自陣深くからのパス回しよりも、素早くパックを前に運び、相手陣内でプレッシャーをかける「フォアチェック重視」の戦術を採用していると見られる。 コーチ陣には青木香奈枝、中島谷友二朗といった元名選手が名を連ね、GKコーチには春名真仁が配置され、盤石の指導体制を敷いている。   

「嵐」と共に戦う – ゴールソングの秘密: 今大会のスマイルジャパンには、ユニークな秘密兵器がある。得点時にアリーナに流れる「ゴールソング」として、国民的アイドルグループ嵐の『Oh Yeah!』(2007年リリース)を採用したのだ。キャプテンの小池詩織によれば、この曲には「オリンピックのような高揚感」があり、選手たちのモチベーションを最高潮に高める効果があるという。イタリアの地で『Oh Yeah!』が何度も鳴り響くことが、勝利へのバロメーターとなる。   

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この記事を書いた人

snowmasterのアバター snowmaster スノーサーチ編集長

スキー歴45年、物心ついたころからスキーを始め、基礎スキー・競技スキーなどを経て、日本国内の素晴らしいスキー場をより多くの人たちに楽しんでもらえるように、1999年よりスノーサーチ(SNOWSEARCH)サイトを運営し今に至る。スノーレジャーを楽しみながら、スキー・スノーボードの普及啓蒙活動に力を入れている、スノーサーチの編集長です。

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